特別講演1

大分県商工観光労働部長
小田切 未来 様
「大分が目指す地域の世界 AI時代における大分の新たな成長戦略」
商工観光労働部長の小田切でございます。先ほどご紹介いただきましたけれども、肩書きがいくつかありまして、今日の講演資料はだいたい8〜9割ほど、「大分県商工観光労働部長」としての立場で作成しております。
講演の機会は2週間に1回ほど頂戴しておりまして、本日はこれまでで最も短い30分ということで、できるだけコンパクトに皆さんへ情報を共有できればと考えております。
結論から申し上げますと、お伝えしたい点は2つです。1つ目は「生成AIを積極的に使いましょう」ということ。この中で生成AIを使ったことがある方はいらっしゃいますか?ChatGPTなどを触ったことがある方、ありがとうございます。これだけ多くの方が手を挙げられたのは初めてでして、この分野の皆さんの意識の高さに頼もしさを感じました。
そして2つ目は、「AIに代替されない人材になること」です。
私は経済産業省から来ておりますが、これまでデジタル、AI、クールジャパン、創業・起業など、前向きな政策を担当してきた人間です。そうした中で、2018年には官僚としてはほぼ前例がない形で、無報酬で「Public Meets Innovation(パブリック・ミーツ・イノベーション)」という団体を創業しました。いわゆる創業者でもあります。
直近では、私がご挨拶させていただいたIPA(情報処理推進機構)という組織で、ITとAIの支援を担当しておりました。
また、IU(情報経営イノベーション専門職大学)の話もありましたが、私も客員教授を務めております。ここは非常にユニークな大学でして、学長である中村伊知哉先生を大変尊敬しております。なぜかというと、この大学の目標は「就職率ゼロ」なんです。つまり「全員起業しろ」ということ。大学でありながら就職率ゼロを掲げるのは珍しいですよね。
さらに、この大学には客員教員が約1,100名もおりまして、民間企業で活躍されている方々が客員教授や客員研究員として関わっています。産業界とのネットワークが非常に強く、実践的な教育を行っている大学です。
東京にありますので、お子さんなどがご興味をお持ちでしたら、ぜひチェックしてみてください。とても面白い大学です。
今日は3つのラインナップで考えてます。1つ目は現状認識、2つ目が国がどう動いているか、3つ目が大分県がどういう動きなのかのこの3つであります。
現状認識
まず1つ目が現状認識、いわゆる「D」というやつですね。私が東京大学で研究者をしていた頃、当時の総長の補佐を務めていました。その時に「4D」「5D」「6D」など、いくつかの“D”という概念を整理していたのですが、今日は時間の関係で「4D」だけを皆さんにお持ちしました。
1つ目のD:人口減少と高齢化
これは皆さんもよくご存じの社会常識的な話です。ご覧のとおり、日本全体で人口が減少しているのは新聞などでも毎日のように報じられています。重要なのは大分県の人口構造です。現在、大分県の人口は約108万人ですが、2070年には約65.6万人になると推計されています。つまり、現在の大分市と別府市を合わせた程度の人口になる可能性があるということです。この現実をしっかり受け止める必要があります。
さらに、地方自治体のレポートを見ると「消滅可能性自治体」という分類があり、大分県内では10市町村が該当しています。この10市町村の出身の方、いらっしゃいますか?――結構多いですね。以前、大学で講演した際にはほとんどいなかったのですが、今日は4割以上の方が該当していて驚いています。
このレポートでは、若年女性人口(20〜39歳)が30年間で50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」と定義しています。つまり、若い女性が減ることで地域の将来が危うくなるということです。
若年女性の減少
私自身、9か月前に経済産業省からの辞令で初めて大分に来ました。最初に感じたのは、スターバックスに若い女性が少ないということでした。東京の恵比寿や広尾、六本木あたりのスタバでは若い女性が多いのですが、大分ではその層が少ないと実感しました。これは統計にも表れている現象です。
大分県の稼ぐ力
次に共有したいデータがあります。おそらく県庁や商工観光労働部ではあまり共有されていない視点です。
まず、大分県の県内総生産(GDP)は九州で第4位です。しかし注目すべきは一人当たりの県内総生産で、これは九州で第1位なんです。多くの方が福岡や佐賀が上だと思われているかもしれませんが、実は大分がトップ。特に大分市は製造業の出荷額が非常に高く、ものづくり産業が県経済を支えています。人口が少ない分、割り算すると一人当たりの生産額が高くなるという構造です。
これは大分県が誇っていい事実です。大学などでこの話をすると「初めて知った」と言われることが多いのですが、まずこの視点を持つことが重要です。
県民所得
では「県民所得」はどうなのか?とよく聞かれます。実は九州で第2位です。わずかに佐賀県に及ばない程度。「佐賀に負けたくない」「あと少しで1位になれる」という声もありますが、私も同感です。
後半では、この県民所得を九州1位にするための施策についてお話しします。計算方法にもよりますが、大分県が一人当たり県民所得で1位になる可能性は十分あると考えています。
幸福度ランキング
次に「都道府県幸福度ランキング」です。昨年の調査では、大分県が全国第2位でした。これは株式会社ブランド総合研究所が発表した客観的なデータです。
生活満足度、地域密着度、定住意向、魅力度、自慢度などを総合した結果です。県民性として「おおらか」「謙虚」「ミーハーな一面もある」といった特徴が挙げられますが、いずれにしても非常に高い評価を得ています。
外国人材の活用
最後に外国人の状況です。今日の大分合同新聞にもありましたが、外国人材の活用が進んでいます。特にベトナム、中国、フィリピン、インドネシアなどからの方々が増えています。
人口減少への対応として、子どもを増やすだけでなく、外国人や高齢者、女性が活躍しやすい環境を整えることが重要です。令和に入ってから外国人労働者数は過去最大となっており、課題もありますが、共生のあり方を考える好機でもあります。
二つ目のテーマ:デジタライゼーションとAIの重要性
ここにいる皆さんの先輩方、そして私の先輩方もそうですが、デジタライゼーション(デジタル化)、さらにはAI(人工知能)の活用が非常に重要です。
私も携帯電話を使っていて、現在「ahamo」というプランに入っています。容量は30GBまでなのですが、これがいっぱいになると通信速度が極端に遅くなりますよね。それと同じように、今はトラフィック(通信量)が爆発的に増えており、世界全体でデータの流通量が急増しています。
そして冒頭でも申し上げましたが、AIの進化は本当にすごい。皆さんも生成AIを使われていますか?という質問に、ほとんどの方が手を挙げられました。
例えばChatGPTでも、Perplexityでも、Copilotでも構いませんが、1年前と比べてレベルがまったく違いますよね。それを実感しているということは、進化のスピードがものすごく速いということです。
ChatGPTのアクセス状況を見ると、日本からの利用は世界第6位です。ちなみに1位はアメリカ、2位がインド、3位ブラジル、4位イギリス、5位インドネシア。日本は以前は2位や3位でしたが、人口の多い国々が使い始めたことで順位が下がっているだけです。利用率が落ちたわけではありません。
生成AIは「創造の民主化」
私は生成AIを「創造の民主化」だと考えています。これは非常に重要な概念です。
どういうことかというと、コンピューターが登場したとき、「サイン90度は?」「コサイン0度は?」と聞かれても、人間はすぐには答えられませんが、コンピューターなら一瞬で計算できます。つまり計算のコストを限りなくゼロにしたということです。
三つ目にインターネット。例えば楽天やAmazonで買い物をすると、東京から荷物が届きます。情報や物流のコストも限りなくゼロに近づいています。Amazonプライムなどでは送料が無料になることもあり、まさに流通コストのゼロ化が進んでいます。
そして生成AIは、創造のコストを限りなくゼロにする革命です。小説が書ける、漫画が描ける、画像が生成できる――これまで人間の創造に必要だった時間や労力が劇的に減っています。だからこそ、AIを使わない手はありません。
ただし、AIは膨大なエネルギーを消費します。そのため、脱炭素化(カーボンニュートラル)の視点も非常に重要です。
エネルギーと中東問題
私は現在、佐藤知事と同じく経済産業省出身ですが、最近最も多く会話しているテーマが「中東問題」です。この問題はエネルギーと密接に関係しています。
原油の供給は今のところ安定していますが、今後ナフサ(石油化学原料)や発泡スチロールの原料問題、電力コスト、食品価格への影響など、非常に大きな課題があります。こうしたエネルギー問題と脱炭素化の流れは、今後の政策において極めて重要な論点です。
四つ目のテーマ:分散化
最後に「分散化」です。先ほども少し触れましたが、現在の政権――高市政権は、どちらかというと経済産業省の香りがする政権です。
なぜかというと、重点分野を17分野に絞って政策を進めており、これは経済産業省的なアプローチに近いからです。実際、総理秘書官の筆頭である飯田さんは経済産業省出身で、私を採用してくださった方でもあります。そのため、地域をどう元気にするかという視点が非常に強い。
最近では「都市の分散化」が注目されています。大分も「第2の副都心」を目指す動きがあります。大阪や福岡(高島市長の取り組み)なども同様です。こうした分散化の流れは、地方創生の新しい形だと思います。
ちょうど講演時間が半分を過ぎましたので、ここからは国の重点政策と大分県の取り組みについてご説明いたします。
国の重点政策と大分県の施策
先ほど冒頭のご挨拶にもありましたが、現在の高市政権の中で、最も関係が深い分野はAI・半導体、そしてデジタル・サイバーセキュリティなどです。
今、国の「地域未来戦略」では3つのクラスター計画が動いています。九州全体でクラスターを形成するものが左側、都道府県単位でのクラスター形成が中央、そして市町村単位でのクラスター形成が右側――この3層構造で進んでいます。詳細はまだ県議会で議論中のため、現時点では申し上げられません。
こうした議論は九州経済産業局でも進んでおり、県、市町村レベルでも動いています。では「大分県は何をするのか」「小田切が来て何が変わるのか」という点ですが、ポイントは3つあります。
① 賃金の問題(賃上げ対策)
政治家に投票する際も「毎年賃金が上がるかどうか」は非常に重要ですよね。景気よりも、実際に生活に直結する経済の底上げが大切です。そのため、大分県では賃上げを促す仕組みを強化しています。
私は2017年、安倍政権下で経済産業大臣政務官秘書官を務めました。その際に関わった政策の一つが「賃上げ枠」です。これは企業が1.5%以上の賃金を上げた場合、補助金の割合が通常の2分の1から3分の2に拡充される仕組みです。
現在、大分県ではこの賃上げ枠を24業種から26業種へ拡張しており、ここまで広げている都道府県は全国でもほとんどありません。
大分県は賃金上昇に真剣にコミットしています。実質賃金(名目賃金から物価上昇分を差し引いたもの)で見ると、全国的にはマイナス傾向の県が多い中、大分県はプラス圏を維持する年も多く、比較的高いトレンドを示しています。これは県の賃金支援策や企業努力の成果です。
ちなみに、最低賃金は昨年87円上昇し、全国第2位の伸び率でした。経営者にとっては負担もありますが、県全体の経済活性化には大きな意味があります。
② 企業立地の促進
次に注目しているのが企業立地です。最近話題になったのが、サンリオエンターテイメントによるハーモニーランドの拡張構想です。初期投資は約100億円、数年で数百億円規模のリゾート化構想が報じられています。実現すれば雇用創出・観光振興の両面で非常に大きな効果が期待されます。
企業立地は投資と雇用を同時に生み出すため、県としても最重要テーマです。沖縄の「ジャングリア沖縄」は約700億円の投資規模で知られていますが、大分でも同様に大規模なプロジェクトが進めば、地域経済に大きな波及効果をもたらします。ハーモニーランドの小巻社長も積極的に構想を練られており、今後の展開に期待しています。
③ 民主導のまちづくり(企業城下町構想)
私が注目しているもう一つの取り組みが「企業城下町構想」です。これは民間企業が中心となって地域を活性化する考え方です。
群馬県前橋市の「メガネのJINS」では、田中社長が表参道のような通りを再現し、そのコンセプトに合うパン屋や理髪店などを誘致して街づくりを進めています。県庁の力に頼らず、民間資金で地域を再生する好例です。
また、「企業版ふるさと納税」も重要です。例えば1億円を寄付すると、法人税控除などにより実質負担は約1,000万円程度になります。最近ではジェイリースが湯布院に約9,500万円を寄付し、地域振興に貢献しました。こうした民間主導のまちづくりが今後ますます重要になります。
製造業とDX推進
残り時間も限られていますので、コンパクトにお話しします。私は大分県の製造業を非常に誇りに思っています。多様な分野があり、県の経済を支える柱です。
今後は、これらの製造業にIT・AI・データ活用を融合させることが重要です。そのため、県では包括的DX相談窓口を新設します。中小企業がDXコンサルタントに相談し、補助金を活用してデジタル化を進められる仕組みです。
また、IPA(情報処理推進機構)と連携し、「CDO読本(チーフデータオフィサー読本)」などを活用して企業のデジタル人材育成を支援しています。大学やAIセンターとのマッチングも進め、専門機関と連携した課題解決を図ります。
さらに、DX人材育成プログラムを商工団体や金融機関職員向けに展開し、優良事例の発信も進めています。こうした取り組みを通じて、中小企業のDXエコシステムを構築していきます。
先端技術への挑戦
AI・デジタルだけでなく、宇宙・エネルギー・ロボット・素材などの分野でも挑戦を促す補助金を準備しています。
また、IPAとの連携協定は広瀬勝貞元知事時代に締結され、ラグビーワールドカップ前のセキュリティ強化を契機に始まりました。現在はAIセミナーなども開催し、DX・AI分野での連携をさらに強化しています。
AIフロンティアセンターと庁内AI活用
県では「大分AIフロンティアセンター」を設置し、企業の課題をヒアリングしてAIによる解決策を提案しています。また、NVIDIAのGPUを無料で利用できる環境も整備しています。
さらに「大分AIカフェ」として勉強会を開催し、庁内でも生成AIの活用を進めています。AI企業「エクサウィザーズ」と連携し、職員の利用率は現在56%まで拡大しています。
AIチャットボットの導入
最後にぜひ覚えていただきたいのが、AIチャットボットです。「大分県」と検索して県のホームページを開くと、右下に「?」マークのボックスがあります。そこをクリックすると、生成AIが質問に答えてくれます。
この仕組みのメリットは2つ。1つ目は24時間365日対応できること。行政が休みの日でも質問に答えてくれます。2つ目は補助金情報などをすぐに検索できること。深い階層を探す手間が省け、非常に便利です。
ぜひスマートフォンで「大分県 チャットボット」と検索して、実際に触ってみてください。無料で利用できます。
最後のメッセージ
はい、ということで残り2分ほどになりました。最後に皆さんへお伝えしたいメッセージを申し上げて、私の講演を締めくくらせていただきます。
AIに代替されない人材・組織へ
AIに代替されない人材、組織にならなければ、この先の未来はありません。先ほど広瀬勝貞元知事のお話をしましたが、やはり人間にとって大切なのは好奇心です。
私が経済産業省にいた頃、尊敬する先輩からこう言われました。「新聞に載っている話題は、全部自分事だと思え。」つまり、どんな分野のニュースでも「自分に関係がある」と捉えることが重要だということです。
大学教育の話題を見たら「文部科学省の話」ではなく、「経済産業省の人材育成政策にも関係する」と考える。副業・兼業の話題を見たら「厚生労働省の話」ではなく、「経済産業省の働き方改革にも関係する」と捉える。
こうした好奇心旺盛な人間こそ、AIに代替されない。これが1つ目のポイントです。
2つ目:おもてなしの心
2つ目はおもてなしです。介護や接客など、人と人が関わる場面では、「ロボットより人間がいい」と感じる方がまだ多い。だからこそ、人間らしい温かさや気遣い――おもてなしの心が、これからますます価値を持ちます。
3つ目:リーダーシップと責任
3つ目はリーダーシップ、そしてレスポンシビリティ(責任)です。ITやAIが生み出したデータをもとに、「これでいい」と最終判断を下すのは人間です。その決断力、責任感こそが人間に残された最後の領域です。
ちなみに、私の肩書きに「スタンフォード大学在籍中」と書かれていて、「え?何だろう?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。現在、私は大分からオンラインでスタンフォード大学の西海岸の授業を受けています。毎日ではありませんが、リーダーシップを学ぶことは非常に大切だと感じています。これこそが、AI時代において人間に求められる力だと思っています。
この3つ――
好奇心
おもてなし
リーダーシップと責任
この3つを心に留めていただければ、私の講演は成功だったと思います。
30分という短い時間でしたが、最後にお願いがあります。ぜひ「小田切未来 大分」で検索してみてください。いろいろな記事が出てきますので、ご覧いただければと思います。
そして何より、生成AIを活用し、AIに代替されない人材になること。最後にもう一つ――「大分県」と検索して、ぜひ生成AIチャットボットを触ってみてください。それが今日の講演の成果だと思っています。
本日はご清聴ありがとうございました。以上でございます。
